この記事は「役員報酬をいくらにすればいいのか分からない」一人社長に向けたものです
会社設立の直後に決めなければならないもののなかで、いちばん判断が難しいのが役員報酬です。設立から3か月以内に決めて、その事業年度は同じ額を払い続ける。途中で自由に増減できないので、決め方に慎重さが要ります。
しかも、金額によって変わるものが多い。所得税と住民税、社会保険料、そして会社に残る利益と法人税。どれかを減らすと、別のどれかが増えます。だから「いくらが正解」という答えが出しにくいのです。
この記事では、役員報酬を決めるときに何を見るべきかを整理します。具体的な金額の正解は事業によって違うので示せませんが、判断の順序と比較の観点はお伝えできます。会社設立の準備として読んでみてください。
この記事は2026年8月時点で確認できた内容をもとにしています。金額や制度は変わることがあるため、実際の手続きの前に一次情報でご確認ください。
役員報酬には、決める期限があります

まず期限の話です。法人税の計算上、役員報酬は原則として設立から3か月以内に決めて、その事業年度は同じ額を払い続ける形になります。これを定期同額給与と呼びます。
途中で増減させると、その差額の扱いが問題になることがあります。会社設立の直後は売上の見通しが立っていないことが多いので、この期限は意外と厳しく感じられます。
期限の起算点は会社の成立日、つまり登記を申請した日です。設立から3か月以内なので、登記が終わったらすぐカレンダーに入れておいてください。青色申告の承認申請の期限とほぼ同じ時期に来るので、まとめて管理すると忘れません。

なぜ3か月という期限があるのかというと、事業年度の途中で自由に報酬を動かせると、利益の調整に使えてしまうからです。年度の終わりに利益が出そうだから報酬を上げる、という操作を防ぐための仕組みです。会社設立の直後は理不尽に感じるかもしれませんが、そういう趣旨だと理解しておくと納得しやすくなります。
この時期は事業の立ち上げでいちばん忙しいところですが、期限のあるものは待ってくれません。会社設立のおすすめの段取りとしては、登記が終わった日にこの5つを予定表に入れることです。
出典国税庁「A2-7 給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出」
金額によって何が変わるのか

役員報酬の額を決めると、次のものが同時に決まります。ここが判断を難しくしている理由です。
もう少し具体的に書くと、会社の利益がゼロになるように役員報酬を設定すれば法人税は最小になりますが、そのぶん個人の所得税と社会保険料が最大になります。逆に役員報酬をゼロにすれば個人の負担はほぼなくなりますが、会社の利益がそのまま法人税の対象になります。実際には、この両極端の間のどこかに落としどころがあります。
つまり、報酬を増やすと会社の税は減るが個人の負担は増え、報酬を減らすと個人の負担は減るが会社の税は増える。この関係を、自分の数字で計算してみる必要があります。
社会保険料については、日本年金機構が標準報酬月額と保険料額表を公開しています。等級ごとに保険料が決まっているので、報酬の額を少し変えるだけで等級が変わり、保険料が変わることがあります。
会社設立のおすすめの進め方としては、いくつかの金額で試算してみることです。月20万円、月30万円、月50万円。この3パターンで比較すると、自分の場合の傾向が見えてきます。
よく見かけるのが「役員報酬を最低額にすると社会保険料がいちばん安くなる」という説明です。たしかに保険料は下がりますが、そのぶん会社に利益が残り法人税がかかります。将来受け取る年金も減ります。ひとつの数字だけを最小化すると、別のところで増えるということです。おすすめは、総額で比べることです。
ただし、この計算は変数が多く、家族構成や他の所得によっても変わります。正確な比較は税理士に頼むのが確実です。
生活に必要な額から逆算する

節税の話が先に立ちがちですが、実務では順序が逆です。まず生活に必要な額を確保する。そのうえで、税と社会保険の観点から調整する。この順番でないと、生活が回らなくなります。
逆算の手順
- 毎月の生活費(家賃・食費・光熱費・保険料など)を書き出す。
- そこから、手取りでいくら必要かを出す。
- 手取りから逆算して、額面の報酬がいくら必要かを見積もる。
- その額を会社が毎月払えるか、売上の見通しと照らす。
- 払えないなら、報酬を下げるか、事業計画を見直す。
4つ目が大事です。役員報酬は、会社に売上がなくても払い続けることになります。会社設立の直後は売上が安定しないので、高すぎる報酬を設定すると資金が尽きます。
逆に、報酬を低くしすぎると個人の生活が苦しくなります。会社に現金は残りますが、それを自由に個人へ移せるわけではありません。役員貸付という形にすると、別の問題が出てきます。
生活費を書き出すときのおすすめは、年払いのものも月割りにして入れることです。保険料、税金、車の維持費。月々の支出だけを見ていると、年に数回来る大きな支出を見落とします。会社設立の直後は収入が不安定なので、この見落としが響きます。
会社のお金は自分のお金ではありません
会社設立をすると、会社と個人は別人格になります。会社の口座から自由に生活費を引き出すことはできません。役員報酬という形で、決めた額を毎月受け取る。これが原則です。個人事業のときの感覚のままだと、ここでつまずきます。
どうしても急に資金が必要になった場合、役員貸付という形で会社から借りることはできます。ただし利息の設定が必要になるなど、扱いが面倒です。おすすめは、そうならないように役員報酬を現実的な額にしておくことです。
この点は、会社設立を検討する段階で理解しておいてください。法人化のおすすめの判断材料のひとつでもあります。
社会保険料の負担を見ておく

一人社長にとって、社会保険料は無視できない負担です。会社と個人で折半する形ですが、一人社長の場合はどちらも結局は自分が出すことになります。
保険料は、報酬の額をもとにした標準報酬月額で決まります。日本年金機構の保険料額表を見ると、等級ごとに金額が定められています。報酬を上げると、標準報酬月額の等級が上がり、保険料も上がります。
ここで押さえておきたいのは、保険料は税金とは別だということです。所得税の節税だけを考えて報酬を決めると、社会保険料の増加を見落とすことがあります。両方を足して比べる必要があります。
一方で、厚生年金は将来受け取る年金額に反映されます。国民年金だけのときと比べると、保険料は増えますが受け取る額も増えます。目先の負担だけで判断するものでもありません。
また、健康保険では要件を満たす家族を扶養に入れられます。国民健康保険では扶養という考え方がないため、家族がいる場合はこの違いが効いてくることがあります。
健康保険については、協会けんぽに加入するのが一般的です。保険料率は都道府県によって違うので、本店を置く場所によって金額が変わります。細かい話ですが、比較の際には知っておいて損はありません。
会社設立のおすすめの進め方としては、社会保険料も含めた総額で比較することです。税額だけを見た試算は、実態とずれます。
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決めたあとにやること

役員報酬の額を決めたら、その決定を記録に残します。株式会社なら株主総会の決議、合同会社なら社員の同意という形になります。一人でも、議事録や決定書を作っておいてください。
決めたあとにやること
- 株主総会議事録(または同意書)を作成して保管する
- 給与支払事務所等の開設届出書を、所轄の税務署へ提出する(開設の事実があった日から1か月以内)
- 健康保険・厚生年金保険の新規適用届を年金事務所へ提出する(事実発生から5日以内)
- 源泉徴収した所得税の納付の準備をする
- 会計ソフトに役員報酬の設定を入れる
源泉徴収は、報酬を払うたびに発生します。源泉徴収した所得税は、原則として翌月10日までに納付します。従業員が常時10人未満の場合は、申請により年2回にまとめて納付できる特例があります。
一人社長で忘れやすいのがこの源泉徴収です。自分に払うお金だから、と処理を飛ばしてしまうことがありますが、法人から役員への報酬は給与として扱われます。会計ソフトで設定しておけば、自動で計算されます。
納期の特例を使うかどうかも決めておくのがおすすめです。毎月納付するか、年2回にまとめるか。手間で言えば年2回のほうが楽ですが、まとめて払う金額が大きくなるので資金繰りには注意が要ります。会社設立の初年度は、どちらが自分に合うか考えてみてください。
年末には年末調整も必要です。一人社長でも、給与を受け取っている以上は対象になります。会社設立の初年度は、この一連の流れをはじめて経験することになるので、税理士に見てもらうと安心です。
出典国税庁「A2-7 給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出」
途中で変えたくなったら

決めた報酬を、事業年度の途中で変えたくなることはあります。売上が伸びた、逆に落ち込んだ。どちらの場合も起こりえます。
ただし、定期同額給与の考え方から、事業年度の途中での増減には制限があります。正当な理由なく変えると、その差額が損金として認められないことがあります。結果として、法人税の計算に影響します。
次の事業年度から変えることはできます。事業年度が始まってから3か月以内に、あらためて決め直す形です。つまり、年に一度は見直す機会があるということです。
会社設立の初年度は、売上の見通しがいちばん立てにくい時期です。おすすめとしては、初年度は低めに設定しておいて、2期目から実態に合わせて上げていく形です。低いぶんには生活が苦しくなりますが、会社の資金は残ります。
初年度と2期目を比較して考えるのも、おすすめの方法です。初年度は控えめにして実績を作り、2期目に数字を見ながら決め直す。会社設立の時点では読めなかったことが、1年経てば見えてきます。
逆に、高く設定しすぎて払えなくなると、未払いの役員報酬という形で会社の負債になります。この状態が続くと、税務上も会計上も面倒なことになります。

よくある質問

役員報酬をゼロにすることはできますか
できます。設立初年度は売上が立たない見込みで、生活は個人の貯蓄でまかなうという場合です。ただし、報酬がないと社会保険の扱いが変わることがあります。年金事務所や税理士に確認してから決めてください。
役員報酬と業務委託費は使い分けられますか
自分が代表を務める会社から自分に業務委託費を払う、という形は認められないのが通常です。役員としての職務に対する対価は役員報酬になります。会社設立の直後に費用の名目を工夫しようとする人がいますが、実態に合わない処理は税務上の問題になります。おすすめは、素直に役員報酬として処理することです。
役員に賞与を出せますか
出せますが、事前確定届出給与という届出をあらかじめ提出しておく必要があります。届出のとおりに支給しないと、損金として認められないことがあります。会社設立の初年度から使うかどうかは、税理士に相談してください。
家族に役員報酬を払えますか
役員になっていれば払えます。ただし、実態のない役員報酬は税務上の問題になることがあります。実際に業務に関わっているかどうかが見られます。会社設立の段階で家族を役員に入れるなら、その役割も決めておいてください。
いくらにするのがいちばんおすすめですか
事業の利益と家族構成によって変わるので、一律の答えはありません。ネット上には「この金額が最適」という記事もありますが、前提条件が自分と違えば当てはまりません。自分の数字で試算してもらうのが唯一の答えです。会社設立のおすすめの進め方として、ここは専門家に頼ってください。
まとめ|生活費から逆算して、期限内に決める

一人社長の役員報酬は、設立から3か月以内に決める必要があります。金額によって税も社会保険料も変わるので、順序を決めて考えると迷いにくくなります。
この記事で押さえたこと
- 役員報酬は原則として設立から3か月以内に決め、その事業年度は同じ額を払い続ける。
- 金額によって、所得税・住民税・社会保険料・法人税が同時に変わる。
- まず生活に必要な額を確保し、そのうえで税と社会保険の観点から調整する。
- 社会保険料は税とは別。両方を足して比較しないと実態とずれる。
- 初年度は低めにして、2期目から実態に合わせるという進め方もある。
制度と手続きは2026年8月時点で確認できたものです。税務の取扱いは個別の事情で変わりますので、実際の判断は税理士にご相談ください。社会保険については、年金事務所の案内もあわせてご確認ください。
決めきる前に、一度試算してもらってください
役員報酬は、会社設立まわりで税理士に相談する価値がいちばん高い項目です。金額の組み合わせが多く、自分の数字を当てはめないと答えが出ないからです。
顧問契約をしなくても、無料相談で試算してもらえることがあります。設立から3か月という期限があるので、迷っているなら早めに動いてください。期限を過ぎてから相談しても、その事業年度はもう変えられません。
そして、決めた金額は毎月きちんと払ってください。払ったり払わなかったりすると、税務上の扱いが問題になることがあります。会社設立の直後は資金が読みにくい時期ですが、無理のない額にしておくことが結局は安全です。
他にもこのようなサイトで検索されていますので、ぜひ見てください
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