この記事は「ゼロから会社設立をするより、今ある会社や事業を引き継いで起業したほうが早いのでは」と考えている人に向けたものです
起業の方法を調べていると、「起業するなら会社を買う」という言い方を目にします。後継者がいなくて困っている会社を引き継げば、お客さんも売上も従業員も、最初からそろった状態で経営者になれるという考え方です。
たしかに魅力はあります。一方で、会社を買うと、帳簿に載っていない借金や、引き継げない許認可といった、会社設立にはないリスクも一緒についてきます。どちらが自分に合うかは、比べてみないと分かりません。
この記事では、会社設立と、事業承継・M&Aで会社や事業を引き継ぐことを、費用・期間・許認可・簿外債務の4つで比較します。数字と制度は、2026年10月に公的機関の資料で確かめたものだけを使いました。
この記事は2026年10月時点で確認できた内容をもとにしています。金額や制度は変わることがあるため、実際の手続きの前に一次情報でご確認ください。
起業するなら会社を買う、とはどういうことか

「会社を買う」起業とは、株式や事業を買い取って、すでに動いている会社の経営者になることです。M&Aの一種ですが、ここで話題にしているのは、個人や小さな会社が、後継者のいない中小企業や個人事業を引き継ぐ小さな規模のものです。
背景には、後継者のいない会社の多さがあります。帝国データバンクの「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」では、約27万社のうち後継者が「いない」または「未定」の会社は約13.8万社、後継者不在率は50.1%でした。前年より2.0ポイント下がったものの、まだ半分の会社で後継者が決まっていません。
業種別では建設業の57.3%が最も高く、製造業の42.4%が最も低い結果でした。後継者がいない会社が多い業種ほど、引き継ぐ側から見れば候補が多いことになります。起業で成功しやすい業種の記事で見た建設業の廃業割合の低さと合わせて考えると、検討する価値のある業種と言えそうです。
ただし、後継者がいない理由は会社によってさまざまです。単に親族に継ぐ人がいないだけの会社もあれば、業績が厳しくて引き継ぎ手が見つからない会社もあります。「後継者がいない=お買い得」ではないことは、最初に押さえておきたい点です。
出典帝国データバンク「全国「後継者不在率」動向調査(2025年)」
公的な窓口:事業承継・引継ぎ支援センターと後継者人材バンク

会社を買う起業の入口として、国が設けているのが事業承継・引継ぎ支援センターです。中小企業基盤整備機構(中小機構)が全国の取り組みをまとめていて、各都道府県にセンターがあります。
中小機構のJ-Net21(2026年5月29日掲載)によると、令和7年度の全国のセンターの新規相談者数は24,030者、第三者承継(M&A)の成約件数は2,265件で、いずれも過去最多でした。起業を目指す人と後継者のいない会社を引き合わせる「後継者人材バンク」の成約も114件と過去最多です。
| 項目 | 令和7年度 | 補足 |
|---|---|---|
| 新規相談者数 | 24,030者 | センター開設以来、初めて2万4,000者を超えた |
| 第三者承継(M&A)の成約件数 | 2,265件 | 過去最多 |
| 後継者人材バンクの成約件数 | 114件 | 過去最多 |
| 後継者人材バンクの創業希望の新規登録者 | 1,472者 | 累計登録者は11,547者 |
後継者人材バンクは、創業を目指す人が登録しておき、後継者のいない会社や個人事業主と引き合わせてもらうしくみです。登録者の数に比べて成約は多くないので、登録すればすぐに会社が見つかるものではありません。それでも、公的な窓口で候補に触れられる意味は大きく、会社を買う起業を考えはじめた段階での相談先としておすすめです。
民間では、M&A仲介会社やM&Aのマッチングサイトも使われています。公的な窓口と民間のサービスを比較しながら、両方の情報に当たってみるのがおすすめです。
出典J-Net21(中小企業基盤整備機構)「令和7年度の事業承継・引継ぎ支援センターの新規相談者数とM&A成約件数が過去最多」
会社設立と会社を買うことの比較:何が手に入り、何を背負うか

中小機構の事業承継・引継ぎポータルでは、後継者人材バンクで事業を引き継ぐ起業について、既存の顧客や仕入先、店舗などの経営資源を引き継げるため、創業時のリスクを抑えられると説明しています。同時に、経営の自由度は独立創業より低く、立地や規模が限られる場合や、個人保証の債務を引き継ぐ場合もあるとしています。

比較すると、会社を買う起業は「時間を買う」選択肢だと分かります。顧客を一から集める時間、従業員を育てる時間、許認可を取る時間を、譲渡の対価で買うわけです。その代わり、前の経営者の時代に積み上がったものも、良いものと悪いものの両方を引き継ぎます。
どちらが正解ということはありません。業種選びと同じく、自分が何を重く見るかで選び方が変わります。会社設立から始める場合の業種の選び方は開業におすすめの業種の記事で比較しています。
出典中小企業基盤整備機構 事業承継・引継ぎポータル「第三者承継支援について」
費用で比較:会社設立の実費と、会社を買うときにかかるお金

費用は、会社設立と会社を買うことで、いちばん性格が違うところです。会社設立は法律で決まった実費が中心で、事前にほぼ正確に計算できます。会社を買う場合は、譲渡の対価そのものが案件ごとにまったく違います。

一方、会社を買う場合にかかるのは、まず株式や事業の譲渡の対価です。これに、仲介会社やファイナンシャル・アドバイザーへの手数料、財務や法務の調査(デューデリジェンス)を専門家に頼む費用、契約書の作成費用が加わります。どれも案件の規模と依頼先しだいで、決まった相場はありません。
| 費用 | 中身 | 目安の考え方 |
|---|---|---|
| 譲渡の対価 | 株式または事業の買取代金 | 財務内容と収益力から当事者の交渉で決まる |
| 仲介・助言の手数料 | M&A仲介会社やFAへの報酬 | 契約前に手数料の計算方法と業務内容を確かめる |
| 調査の費用 | 税理士・公認会計士・弁護士などによる財務・法務の確認 | 調べる範囲で変わる |
| 登記の費用 | 株式譲渡で役員を替える変更登記など | 登録免許税は1件1万円(資本金1億円以下の会社) |
国税庁の登録免許税の税額表では、取締役などの変更の登記は申請1件につき3万円、資本金の額が1億円以下の会社は1万円です。本店を移すなら、本店の移転の登記も別にかかります。会社を買う場合でも、こうした登記の実費は発生します。
会社設立の費用の全体像と、安くする方法は会社設立の費用を安くする記事で比較しています。買う場合の資金を借入でまかなうなら、事業計画をもとに金融機関と早めに相談しておくのがおすすめです。
株式譲渡と事業譲渡:何を引き継ぐかで手間とリスクが変わる

会社を買う方法は、主に2つあります。会社の株式を買って会社ごと引き継ぐ株式譲渡と、会社の中の事業(設備・在庫・取引先など)を選んで買う事業譲渡です。どちらを選ぶかで、引き継ぐ手間とリスクが大きく変わります。

株式譲渡は、会社という入れ物ごと持ち主が替わるだけなので、許認可や取引先との契約、従業員の雇用は原則そのまま続きます。手続きが比較的シンプルな反面、帳簿に載っていない債務や、係争中のトラブルも一緒に引き継ぐおそれがあります。
事業譲渡は、引き継ぐ資産と負債を選べるので、予期しない債務を引き受けるリスクを下げられます。そのかわり、取引先との契約は結び直し、従業員には個別に移ってもらい、許認可も業種ごとに手続きが要ります。
個人が会社を買う場合は、すでにある会社の株式を買えば、会社設立をせずに経営者になれます。事業譲渡で買う場合は、受け皿になる会社をまず設立してから事業を引き継ぐ、という順番になることがあります。どちらの方法が向くかは、許認可と債務の状況で決まるので、税理士や弁護士と比較しながら決めるのがおすすめです。
出典マネーフォワード クラウド「株式譲渡と事業譲渡の違いは?目的や税金などを解説」
許認可の引継ぎ:届出で済む業種と、事前の認可が要る業種

許認可が要る業種で会社を買うなら、許可を引き継げるかどうかが最大の確認点です。会社設立から始める場合は、許可が出るまで営業できない期間がありますが、引き継げれば、その空白期間なしに営業を続けられます。許認可のある業種で会社を買うなら、契約の前に所管の窓口へ相談しておくのがおすすめです。
厚生労働省の案内によると、2023年12月13日から、飲食店などの食品衛生法の営業、理容所・美容所、クリーニング所などの事業譲渡では、譲受人が新たな許可を取らずに、届出などで営業者の地位を承継できるようになりました。旅館業は事前の承認の手続きが要ります。事業の一部だけを譲渡する場合は対象外となり、新規の申請が要ることがあります。
| 業種 | 事業譲渡のときの扱い | 確かめる窓口 |
|---|---|---|
| 飲食店など(食品衛生法) | 譲受人が遅滞なく届出をして地位を承継 | 保健所 |
| 理容所・美容所・クリーニング所 | 届出などで地位を承継 | 保健所など |
| 旅館業 | 事前の承認の手続きが要る | 保健所など |
| 建設業 | 事前の認可で地位を承継(承継予定日の90日前までに申請) | 許可を出した国土交通大臣または知事 |
建設業は、2020年10月1日から事業譲渡・合併・分割で許可を承継する制度ができました。国土交通省関東地方整備局の案内では、事業承継の認可申請は承継予定日の90日前までで、標準処理期間は90日、手数料はかかりません。建設業の全部を承継することが条件で、承継する側も許可の要件を満たしている必要があります。
承継の規定がない許認可は、事業譲渡では取り直しになることがあります。株式譲渡なら会社に許可が残るのが一般的ですが、役員や営業所の技術者が替わると要件を満たさなくなる業種もあります。許認可が関わる業種の一覧は会社設立の業種一覧の記事で比較しています。
出典厚生労働省「生活衛生関係営業等の営業者の皆さまへ 事業譲渡に関する手続が整備されます」
簿外債務と経営者保証:会社を買う前に確かめること

会社を買う起業で、会社設立にはない最大のリスクが簿外債務です。未払いの残業代、保証している他社の借入、係争中のトラブルなど、決算書に載っていない負債を指します。株式譲渡では、こうしたものも会社ごと引き継ぐおそれがあります。
中小企業庁は2024年8月に「中小M&Aガイドライン」を改訂し(第3版)、最終契約やクロージングのあとに当事者間のトラブルになりうるリスク事項の解説を加えました。仲介者やファイナンシャル・アドバイザーには、手数料の詳しい説明や、リスク事項の具体的な説明が求められています。

ガイドラインの改訂では、売り手の経営者保証の扱いも明記されました。前の経営者が会社の借入を個人で保証している場合、M&Aを機に保証を外すのか、買い手に移すのかを、成立前に金融機関や専門家と相談しておくことが求められています。買い手の立場では、自分が新たに保証を求められるかどうかを確かめておく必要があります。

こうした調査には費用がかかりますが、会社設立なら負わなくてよいリスクを確かめるための費用です。調べずに買って、あとから債務が出てくるのがいちばん高くつきます。小さな案件でも、税理士や弁護士に一度は見てもらうのがおすすめです。
会社設立で始めるか、引き継ぐかを含めて、起業の進め方を相談したい方は、無料の相談から始めてみてください。
無料で相談してみる※ 弊社調べによるものです。掲載内容および順位は定期的に変わります。本サイトは広告およびアフィリエイトプログラムによる収益を得ています。
出典経済産業省(中小企業庁)「「中小M&Aガイドライン」を改訂しました」
まとめ|会社を買うか、会社設立から始めるかの比べ方

起業するなら会社を買う、という選択肢を、会社設立と比較してきました。押さえておきたいのは次の点です。
この記事で押さえたこと
- 後継者不在率は50.1%(2025年、帝国データバンク)。後継者のいない会社は約13.8万社ある。
- 事業承継・引継ぎ支援センターの令和7年度のM&A成約は2,265件、後継者人材バンクの成約は114件で、いずれも過去最多。相談は無料。
- 会社設立は実費が法律で決まっていて計算しやすい。会社を買う場合は、譲渡の対価と専門家の費用が案件ごとに違う。
- 株式譲渡は許認可や契約がそのまま続く反面、簿外債務も引き継ぐおそれがある。事業譲渡は債務を切り離しやすいが、許認可や契約の手続きが要る。
- 飲食店・美容所などは2023年12月から事業譲渡でも届出などで承継できる。建設業は事前の認可が要る。
業種選びの全体像は会社設立 おすすめ 業種のまとめにあります。数字と制度は2026年10月時点で確認した中小機構・厚生労働省・国土交通省・国税庁などの公表資料によるもので、変わることがあります。実際に会社を買う前には、事業承継・引継ぎ支援センターや、税理士・弁護士などの専門家にご相談ください。
買うか作るかは、引き継ぎたいものがあるかどうかで決まります
会社を買う起業がおすすめなのは、引き継ぎたい顧客・技術・許認可がはっきりしていて、それを自分で一から作るより早く手に入るときです。反対に、やりたい事業の形が決まっているなら、会社設立から始めるほうが自由に組み立てられます。
どちらを選ぶにしても、最初の相談先は無料の公的窓口で十分です。事業承継・引継ぎ支援センターで話を聞き、引き継げそうな会社の情報に触れてから、会社設立と比べてみてください。
当サイトでは、会社設立の費用や手続きを比較した記事も用意しています。判断の材料として使っていただければ幸いです。
他にもこのようなサイトで検索されていますので、ぜひ見てください
この記事のキーワードに「会社設立 おすすめ 比較」を足して検索したときに実際に出てきたサイトです。掲載の順番は優劣を示すものではありません。内容は各サイトの公開時点のものなので、料金や条件は、リンク先で最新の表示をご確認ください。
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